廊下の途中に、ホストかと思うほどかっこいい執事が立っていた。
「おはよう、蘇芳」
「はよ、薺」
 霊静 薺(たましず なずな)。俺がこの屋敷の中でタメ口で、ついでに相手もタメ口で話してくる数少ない相手だった。
 まあ理由は単純なんだ。この屋敷、俺と薺以外に男がいない。いや、一人性別不明がいるけど。
 そんなわけで男っていうところに親近感が湧いた俺達はタメ口で話せるようになったのでした。
 しかし薺、蓮華の兄さんだけあってかっこいい。俺だとちょっともったりする黒の燕尾服もビシッと着こなしてるし、軽くオールバックにした明るい茶髪もよく似合ってる。嫌味なところがないんだよな、うん。しきみさんがミスパーフェクトメイドなら薺はミスターパーフェクトバトラーってところか。
「蓮華今日も可愛かっただろー」
「ああ、可愛かった可愛かった。兄貴代わってくれよ」
「断固拒否。蘇芳が俺の弟になるっていうんなら考えてもいいけどな」
「うわ、何だよその交換条件」
 薺の弟で蓮華の兄貴? うーん、悪くないけど、そこまでしなくてもなぁ。それに俺はしきみさんとニュース曰く殺人鬼だし。
 薺はクスクスと笑った。
「そんな顔すんなよ。別に末摘お嬢様にお願いして戸籍から弄ってもらおうなんて思ってないさ」
「げ、そこからかよ」
 俺の身元もまだハッキリしねぇってのに。
 どうも霊静兄妹には気に入られてるみたいで、しきみさんと対照的に蓮華さんからも薺からもこんな感じだった。何だ、今話題のツンデレじゃなくってデレデレデレって感じ。素性も知れない奴にここまでデレるってすげぇと思う。
「と、あんまり話してると小筒さんに怒られるな。じゃあ蘇芳、また後でな」
「おう、また後で」
「楽しみにしてるぜ」
 その最後の一言に含められた意味にげんなりとして、ああでも仕方がないかと諦めてみた。
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