違う生き物

 病室で微笑む彼女は美しかった。
 白いベッドの上で、手首に巻かれた包帯には血がにじみ出ていたけれど、それすら美しかった。
「丈兄さん、どうも」
 黒髪がサラ、と揺れる。夕焼けが差し込む部屋で青はただ、赤かった。
「……ゴメン」
 丈は思わず謝っていた。何に対してかはわからないけれど。
「別に……丈兄さんが謝る事は何もないよ?」
「それでも、ゴメン」
 青は首をかしげた。丈の謝る意味を推測できないらしい。
 丈にだって謝る意味がよくわからない。
「ただ、謝らなくちゃいけないと思って」
「……?」
「よくわからないけど――俺は青に謝るべきなんだと思う」
 沈黙が降りる。こんな時結城がいればスパッと兄を切って終わりなんだろうが。
「……ええと、丈兄さん。巧く言えないんですけど」
 いない以上、結城には頼れない。青は自分の言葉で説明する事にした。
「私は自殺して良かったと思っている」
「……え」
「私はあの人に会えて、やっと私を見つけた。生きる理由を見つけた。だから丈兄さん、私は自殺してよかったと思っている」
「……死んだかも、知れないのに……」
 丈の言葉に青は少し考え、
「丈兄さんは自殺がどうしていけないか説明できないでしょ?それと同じ事だよ」
 微笑む青はきれいで。

 別の生き物のようで。


「いやホント……あの時はよくわからなかったけどさ」
「……何が言いたいの、兄さん」
 4年経った今でも結城と青の表情は変わらない。青の浮かべる小さな微笑み。結城が浮かべる何かを訴えたそうな顔。
 変わったのは丈だ。笑いもしたし泣きもしたし、恋もした。色んな苦難を乗り越えもした。哀しい出来事もたくさんあった。共に生きるべき大切な人を見つけもした。
「要するに、俺は青が好きだった。でも青とは一緒に生きられないことを知った。それで、失恋したんだ」
「……今さら?」
 結城の言葉に丈は笑い、
「今さらは結城の方だろ。結城はまだ、青と自分が同じ生き物だと思っている」
「違うの?」
「違うさ」
「……わけわからない」
「その内わかる。いやでもな」
 結城は眉間のしわを深め、丈は柔らかく笑った。
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