無人駅にて

 少年はそこで電車を待っていました。
 一日に何本も電車が来ないような、田舎の駅です。
 少年の他には誰もいません。
 緑はもう鮮やかですが吹き付ける風が存外に冷たくて、コートを持ってきて良かった、と少年は思いました。

 ふと。
 少年はベンチに誰かが座っている事に気がつきました。

 白いワンピースを着た、白い肌の女の子です。膝の上に握りこぶしを置き、じっと地面を見つめています。
 少年は腕時計を見ました。電車が来るまで時間はまだあります。
「……あの」
 暇つぶしの道具など持ってきていなかったので、誰かと話して時間がつぶせるなら、と少年は話しかけることにしました。
「何をしているんですか?」
 少年が問いかけると少女は顔を上げました。
 透き通るような白い肌。化粧も知らないような、長い黒い髪。汚れを忘れてきたような黒い大きな目。そのどれもが人ではないように思えました。
「人を……」
 少女の声は非常にか細いものでした。
「人を待っているんです」
「へえ、誰か迎えに来るんですか?」
「はい……」
 少しうれしそうな、そんなはにかんだ笑顔を少女は浮かべました。
「いつになるかわからないですけど……でも、いつか迎えにきてくれるんです」
「そうなんですか」
「はい……」
 実に少女は幸せそうで、でも大分待ったような、そんな顔で。

 やがて、電車がやってきました。

「あ……もう行かないと。お話してくれてありがとうございました」
「……帰るんですか?」
「はい。故郷(くに)に待っている人がいるので」
「そうなんですか……」
 荷物が詰まったボストンバッグを背負い、ガラガラの電車に乗り込むその直前、
「あ」
 少年はクルリ、と少女の方に振り向きました。
「迎え、早く来るといいですね」
 少年の言葉に少女はパチクリと瞬きをして、
「……はい、ありがとうございます」
 実に幸せそうに笑いました。

 電車が発車し、少年は窓から駅のホームを見ました。やはりホームには誰もいません。
 少女の待ち人はおそらく、この先何百年かかっても来ないだろうと思いながら。
 少年はやがて春を迎える景色を眺めていました。


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 むかーし書いた小説?のリメイク。昔書いた方はもっと抽象的でした。
 自分、抽象的にする癖あるからなぁ……気をつけないと。
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