天使病−When Start.−

◆進行性奇形肢骨形成病について
 始まりは日本の少女だという。
 それ以前にも発症があったのかもしれないが、世界的に確認されたのは彼女が最初だ。
 彼女の名前はアリサカ エイコ。ごくごく普通の家庭に育った小学生。
 彼女が9歳の春、彼女は父親に「服が着れない」と訴えた。昨日までは服は普通に着れていた。
 不思議に思った父親が彼女に服を着させようとすると背中に羽のような物が生えているのに気付いた。
 驚いた父親は母親に報告、学校を休み病院へと行く事になった。
 今まで見た事のない病気に医師は驚き、この事は即座に世界へと伝わった。
 聞く限りなら彼女は即座に国連の病院に収容されたという。

 この病気は進行性奇形肢骨形成病と命名されたが
 一般マスコミがその見た目から「天使病」と呼ぶようになり、その呼び名が定着した。
 進行性奇形肢骨形成病と書くのも面倒なので以降は天使病と呼ぶ事にする。

 その後もこの病気は全世界で発症していった。
 ある日、一つの家庭で妙な事が起こった。
 特に誰かが侵入した形跡もないのに一家全員が殺されていた。
 いや、一家全員ではない。次男がいなくなっていた。
 次男がいたはずの部屋では羽が生えた奇妙な生き物が死んでいた。
 DNA検査でわかったのは、それが次男という事だった。
 その時既に最初の発症者、エイコは奇形へと変化しきっていたという。
 奇形へと変化してまもなく、彼女は人間としての理性がなく、また身体への異常な負担で死亡した事が確認された。

 最初の発症から一年、天使病について解ったのは
 ・十代前半までの子供に発症
 ・背中に羽のような物が生え、やがて全身も奇形へと至る
 ・全身が奇形へと変化すると人間としての理性をなくし、まもなく(半日も経たずに)死亡する
 ・奇形へと至る時間は差がある
 という事だけだった。
 特に感染ルートについては全くの不明のままだった。

 しかし発症していった人々の家庭状況をまとめると面白い事が解った。
 一様に家庭状況が悪化していたのだ。
 最初の発症者、エイコは兄と両親の喧嘩が絶えなかったという。

 それを発見したのはアメリカのある小さな町の神父だった。
 しかし発症し末期へと突入したニコラス少年によって殺害された。
 残された日記からその事が解ったのだ。
 おそらく彼は天使病にかかった子供や親の悩み相談に当たっていたと思われる。

 ここで一つ疑問がある。
 ニコラス少年が彼を殺してしまったのは――何故だろうか。
 ニコラス少年の家は父親の浮気が原因で両親の喧嘩が耐えなかったという。
 末期に突入した彼が両親を殺すのは納得いく。
 しかし、全く関係ない神父を何故殺す必要があったのだろうか。
 彼の家から教会までたっぷり10kmはあったという。
 そこに移動するまでの時間彼が生きていられたというのも妙な話だし、
 そんな遠い所までわざわざ移動するという理由がわからない。
 また神父の日記はある特定のページからビリビリに破かれていた。
 神父の日記は本棚にしまわれていたが他の本は全くの無傷だった。
 これは――どういう事か。
 私は警察ではないし探偵でもミステリーマニアでもないが、これには何かの裏を感じる。
 まあこの事は私達医師の専門分野ではない。
 警察や探偵に任せておけばいいだろう。

 天使病の対策はとにかく家庭状況の悪化を防ぐ事だ。
 辛い事があれば誰かに相談し、何とか良い方向へと導く事が必要だ。
 実際家庭状況の改善により天使病が治ったケースもある。
 しかし家庭状況はつまり人間の感情だ。理性で何とかできるものでもないだろう。
 カウンセラー他からのメンタル面のケアが期待される。


 A.G.ルセアリア医師の筆記より。
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