物語の幕は降り、そして新たな物語へと。

物語の裏側で
〜物語と物語の幕間にて〜


「待ちくたびれちゃうかと思いました」
「………」
 ヒラリヒラリと桜の花びらが舞う中で、彼は柔らかく微笑んだ。
「本当……お疲れ様です」
「……ああ」
 自然と手がその頭に伸びた。クシャリ、と慰めるようになでる。
「すまなかったな」
 その言葉にも彼は柔らかく微笑む。それは仕方ない事だったと。もう過ぎてしまった事だからと。そう諦めるかのように。
「……色々話したいことがある」
「はい、僕も聞きたい事がたくさんあります」
 ヒラリヒラリと。桜の花びらが色々な物を埋めるかのように舞っている。
「――紅茶、また飲みたいです。淹れていただけますか?」
「……ああ、もちろんだ」
 生前果たせなかった約束をもう一度、二人は交わしていた。


「何ですかあの雰囲気たっぷりの空間は」
「ははは、さてな」
「………」
 二人から数十メートルほど離れたところで彼らは料理や酒をつまんでいた。
 彼ジークフリートが「個人的に話したいことがある」とサンゼルマンを連れて行ったのはつい先程。
 二人の様子を遠目から見て、げんなりしたようにミーミルは言い、呆れたような目でリバーシは見ていた。
「いやしかし……意外と時間がかかったな」
 しみじみとクロイツは言った。
 物語の幕が閉じたのがつい先程。それとほぼ同じくして彼らがやってきた。今はこうして花見をしながら彼らの話を聞いているところだ。驚く事も多かったが――すでに自分の出番のない舞台の事だ。ほとんど他人事のようだった。
「あなたが降りた後も大変だったんですからね」
「ああ。色々あったな」
 最後の最期まで舞台で立ち回り続けていた二人がしみじみと言う。途中で降りたクロイツとは違い、最初から最期までフルコースで出続けた上に主役級メインディッシュだった二人の事だ、目に見える以上の苦労があったのだろう。
「はぁ……疲れた……」
 と、そこへブラック・マンがやってきた。見るからに疲労の色を漂わせ、どかっと腰を下ろす。
「どうも、ブラック・マンさん」
「ん……ああ、ミーミルにリバーシか。終わったのか?」
「ああ」
「ブラック・マンさんは何をしていたんですか?」
「バカ共を黙らせてきた」
「「バカ共?」」
 ブラック・マンは黙って後ろを指差した。見れば――紅牙やブギーマン、レッドホークが転がっていた。
「……えっと?」
「口を開く度に派手に殺し合いをするからな。無理やり黙らせた」
「お疲れ様だったな」
 ははは、と変わらずクロイツは笑った。……いや、笑い事ではない気がするのだが。
「お前らも殺し合いはするなよ。強制的に止めに入るからな」
「そんな、しませんよ」
「ああ」
 即答したがブラック・マンの顔は晴れない。……相当何回も起こっていて、その度止めてきたのだろう。苦労察するに余りあるというか。
「――では二名ほど戻ってきていないし、三名ほど潰れているが、一応の完結を記念して乾杯でもしようか」
「あ、それいいですね」
「……まあ複雑だがな」
「同感だ」
 四人はそれぞれグラスを手に取り、
「それでは――物語の完結を記念して、乾杯!」
「「「乾杯!」」」
 カチャン、と小気味のいい音を響かせた。

 ヒラヒラと桜の花びらが舞い、散る。
 その内何人かはここから出て行くだろうが、この景色は変わらないだろう。
 ――ここは物語の舞台裏、出番の終わった人々が集まる場所――



☆後書き☆
 MIM完結記念、という事で突貫作業で仕上げてみました。
 ブラック・マンは苦労人だといい。ってか絶対苦労人だと思う。
 あとクロイツのキャラが違うかもしれませんが、勘弁してくださいという事で。酔ってるんですよ、きっと。
 とにもかくにも、MIM完結しましたねー……ちょっと寂しい気がするような。
 とりあえず無難なところでこうやってまとめてみました。
 CEMさんお疲れ様でしたー! 極上の物語をありがとうございますー!
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