嗚呼我等、物語の舞台を降りたれば。

物語の裏側で


 ヒラリヒラリと桜の花びらが舞っていた。
(……?)
 レッドホークは首をかしげた。自分がさっきまでいたところは桜なんて咲いていなかったはずだ。
(そうだ、私は……)
 あのなんだかよくわからない生き物と途中から現れたケンタウロスだかなんだかに殺されたはずだ。では、ここはどこなのだろうか。
 考えていると、
「……あ! こっちですよ、こっち!」
 呼ぶ声がして、レッドホークはそちらを向いた。
「こっちですよ!」
 見れば、遠い場所で誰かが手を振っていた。――どうせここにいて考えていても何も進展はしないだろうし、どこか聞いた覚えのある声の主の元へレッドホークは歩き出した。


「お疲れさまです」
「まあ座りなさい」
「……ジークフリートに、クロイツ?」
 そこには自分よりも先に殺されたはずのジークフリートとローゼン・クロイツがいた。とりあえずは、勧められるがままに広げられたござに座る。
「ここは……」
「物語の舞台裏です。他の皆さんも来てますよ」
「――……」
 よくわからないが、とりあえず殺された者の集まる場所らしい。
 疑問が解けると今度は広げられている物に目が行った。
 重箱に詰められた料理に様々な酒の瓶。……これはなんだろうか。
「あ、どんどん食べちゃってください。飲み物もたくさんあるのでジャンジャン飲んじゃっていいですよ」
「あ、ああ……」
 視線に気付いたのかジークフリートが皿とフォークとコップを差し出してきた。それは素直に受け取るも、これらが何なのか気になって仕方ない。
「……何だこれは」
「花見ですよ」
 笑顔でクロイツが答えた。ジークフリートも笑って言う。
「こんなきれいな花なんだから、楽しまなきゃ損でしょう?」
 言われてレッドホークは辺りの木々を見上げた。
 そこには見事なまでに咲き誇る桜が並んでいた。空の青さも相まって、より一層美しく見える。
「――……確かに」
 確かにこれは楽しまないと損だろう。空虚に時間を過ごすよりも数十倍いい。
「ブラック・マンに紅牙と……ブギーマンは?」
 彼らと同じく自分より先に死んだ人物を挙げる。ジークフリートはちょっと困ったような顔をして、
「紅牙さんとマイケルさんがマジゲンカ始めちゃいまして。ブラック・マンさんはそれを止めに行ってます」
「………」
 呆れてしまった。ここまで来てケンカをするとは……
「あいつららしいと言うか……」
「ハハハ」
 クロイツが笑った。その脇には日本酒の瓶が何本も転がっていた。よく見れば、彼の娘だという少女も一緒に転がっている。……寝ているようだ。
「まあ物語の先はまだ長いのだし、出番の終わった私たちはここで高見の見物と行こうじゃないか」
「――……そうだな」
 ヒラヒラと桜は散り、咲き誇り、美しい姿を披露していた。
「あー、早く伯爵来ませんかね。あの人の紅茶を飲みながら花見がしたいです」
「ハハハ、そうすると他にも誰か来そうだなぁ」
「……ジークフリート、それ、ウォッカか?」
「あれ、レッドホークさん知らないんですか? ウォッカは0歳からOKなんですよ」
「………」
「それは……ある意味天国だな、ハハハ」
「………」

 その後、戻ってきたブギーマンとレッドホークがケンカを始めたりするのはまた別の話。



☆後書き☆
 元々は漫画のネタでしたが、間がうまく表現できなかったので小説に。誰か漫画化してください(ぉ)
 これは完璧にパロディというかパラレルというか。「一握の夢」とはまた別のラインで書いてみました。
 ウォッカが0歳からOKは実際どっかの国であった話です。赤ん坊にミルクの代わりにウォッカを飲ませたとか。死ぬよ。別の意味で天国だよ。
 あとクロイツは笑い上戸という設定に。何でだ。何で笑い上戸なんだ、僕。
 一応ギャグ……なのかな? ほのぼの? うん、まあ、そんな感じです。
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