夏祭り


「兄貴兄貴、おかしくないかな?」
「ああ、似合ってるぞ」
 くるくると回ってアカネは自らの姿をリュウに聞いた。
 今日は夏祭りの日だ。いつもは着ない浴衣を着てアカネは興奮していた。
 アカネのはピンク色の生地に白い羽が散っている現代風の模様で、リュウのは藍色の生地に青色で細かい刺繍がされていた。
「シェルハードはー?」
「いるぞ」
 腰に挿した魔剣をリュウはなでた。
「うんうん、シェルハード、こういう時にいないとすねるもんねー」
 いつもなら甲高い声を上げて反論するシェルハードが今日は何も言わずに黙っていた。
「まあ、いいさ。早くしないと花火が始まるぞ」
「あ、そうだった! 屋台ー!!」
 てけてけと駆け出すアカネをリュウは追いかけた。


 無限学園はすっかりお祭りムードで、あちこちで威勢のいい掛け声や笛の音が響いていた。
「にぎやかだね〜」
「そうだな」
 ゆっくりあちこち見ながら歩いていると、突然アカネが駆け出した。どうしたのかと追いかけると、そこには顔なじみの二人がいた。
「戒伝先生、時雨先生こんばんはー」
「こんばんは」
「おう、リュウもいたのか」
「まあ、一応な」
 戒伝と時雨。無限学園の名物教師とも言える存在だ。
 口が悪くて常にダルそうにしているが面倒見のいい戒伝。温和で優しくダルそうにしている戒伝をいつも引っ張っていく時雨。二人とも生徒に非常に人気のある教師だ。
「先生たちは見回り?」
「まあそんな所ですね。羽目を外して大暴れをしてしまう人が少なくないもので」

ドゴーン

「……チッ、またか。行くぞ時雨」
「はい。それでは」
「あ、うん。頑張ってください〜」
 駆け出す二人を手を振ってアカネは見送った。
「……なぁ」
「ん?」
「二人とも、楽しそうじゃなかったか?」
「……いいんじゃない?」
「……まあいいか」
 二人はまた歩き出した。


「あ、ミルちゃんにその他大勢!」
 びす、とアカネの頭にチョップが入った。
「……訂正、ミルちゃんとフェイスとその他大勢」
「ちゃんと言えよ」
「……さらに訂正、ミルちゃんたち」
 はぁ、と大仰にため息をつかれた。
 出会ったのはフェイスにミル、オッドアイやクックなどの俗にBMC義勇軍と呼称される人々だった。
 各々が浴衣を着ていてそれがとても似合っていて、アカネはへにゃ、と幸せそうな顔をした。
「アカネー、俺たちはその他大勢なのかー?」
「ごめんごめん、ミルちゃんがすごいきれいでさー」
「えっ……そ、そうですか?」
 クックにからかわれてアカネはミルをほめた。その言葉にポッと頬を赤らめ、手を頬に当ててミルは照れた。
「ホントホント。私女の子に関しては嘘つかないよー」
「じゃあ他の事に関しては嘘つくのかよ」
「………」
「おいっ!」
 ケイロンにツッコまれてアカネは笑顔で押し黙る。すかさず裏手ツッコミが入って、「きゃー」とアカネはリュウの後ろに隠れた。
「そういうアカネさんも良く似合っていますよ」
「えへへ、レックもね。エロい」
「……エロいんですか」
「うん、エロい」
 ほめられてはいるものの、エロいと言われてレックは複雑な表情をした。
「……まあ確かに」
「リュウまで!?」
 リュウが同意してレックは衝撃を受けた。まさか真面目なリュウまでもがそういう事を言うとは思っていなかったからだ。
 リュウはひたすら真剣な顔で冗談を行っているようにも思えない。……最もリュウが表情を変えたところを滅多に見たことがないのだが。
「……それで、席取りはどうなったんだ?」
 ぼそり、とオッドアイが言った。
「………」
「………」
「……そ、そうでした!」
「あ、ミルッ!」
 パタパタと駆け出すミルを慌ててフェイスは追いかけた。
「あー、相変わらずなんだねー」
「まー少しぐらい放っておいても大丈夫だろーな」
「フェイスー、ミルー、先行くなー!」
「あ、こら、ケイロン!」
 ダッダッダッダッ
「……放っておいてないようだが」
「知らん」
 そんなやり取りに、アカネはクスクスと笑った。
「じゃー、俺たちも行くな」
「またな」
「うん、バイバイー」
「楽しめよ」
 オッドアイもクックも雑踏の中にまぎれて、すぐに見えなくなった。


 さらにてほてほと歩いていると、今度はリュウが立ち止まった。
「どーしたの?」
「いや、あっちにラゾンとユーシスがいたからさ」
「え、ホント?」
 リュウが指差した方を見ると、確かに私服のラゾンとユーシスがいた。
「あ、ホントだ」
「来てたんだな」
「邪魔しないであげてくださいね」
「わ!?」
 不意に後ろから声をかけられた。
「お久しぶりですね」
「バーラムか」
 声をかけてきたのはバーラムだった。浴衣を着てお面を被り、すっかりあたりに馴染んでいる。
「何とか言いくるめて二人っきりにしたんですから」
「あ、そーなの?」
「ええ」
 大変だったんですよ、とバーラムは笑った。
 辺りを見回してみれば、なるほど、雑踏にまぎれてベルーガやオリファントたちがじっと二人の事を見守っていた。
「そっかぁ、じゃあ邪魔しちゃゆーちゃんに悪いね」
「ラゾン、楽しそうだな」
「そりゃあ長年連れ添ってきた兄妹同然の仲だものー。ヘタすると私たちより仲いいんじゃない?」
「……そうだな」
 にゃはは、とアカネは笑った。ベルーガがにっこりと笑う。リュウだけがいつもと変わらない表情をしていた。
「それでは私はもう行きますね。まだまだ色々と回りたいところがあるので」
「うん、またねー」
「ギオたちによろしく」
 ヒラヒラと手を振ってバーラムは歩いていった。
「俺たちもそろそろ行かないとな」
「あ、そっか、花火始まるもんね」
「行くぞ」
「うん」


「……何やってんの、二人とも」
「あ、アカネ」
 悪魔神殿の入り口で、ルナールとパンプスがにらみ合いをしていた。ルナールはひたすら険しい顔でパンプスを睨んでおり、パンプスは鮮やかな赤色の女物の浴衣を持ってニコニコ笑っていた。
「いやさー、お祭りだしルナに浴衣を着せようと思ったんだけど♪」
「ざけんな! それ明らかに女物だろ!?」
「別にいいじゃん♪ 似合うよ?」
「あー、だから浴衣貸してっていたのか」
「お前のか!?」
 ポリポリと頬をかいてアカネは答えた。
「うん。パンプスが貸してって言うからとりあえず一番きれいなの貸したんだけど」
「ああ、あの高いのか」
「うん。なんだ、そうだと知ってたら……」
「知ってたら?」
「男物にも見える女物貸したのに」
「結局女物かよ!」
「あっ、ルナ!」
 叫んでルナールは駆け出した。その後をパンプスが追いかける。
「……男物貸しとけよ」
「だってつまんないじゃん」
「……そうか」


 二人は悪魔神殿のテラスへと上がってきていた。
 花火が良く見えてあまり人がいない場所。悪魔神殿は一般生徒は近づかないのでわりと穴場だと踏んだのだ。
 と、
「あれ? 先客だー」
「おや、どうも」
「こんばんはー」
「いい夜だな」
 テラスにはサイコハンズとファウラーと悪魔の使いが既にいた。机の上とそれぞれの手の内にはトランプがあり、ゲームに興じていたのがすぐにわかった。
「皆も花火待ち?」
「ええ、まあたまにはいいかと思いまして」
 笑ってサイコハンズは二枚カードを入れ替えた。
「私は無理矢理起こされたんですけどねー」
「別に構わないでしょう。たまにはいいものですよ」
「それもそうですねー」
 ファウラーは三枚カードを入れ替えた。
「短々坊とかは興味がないみたいだけどな。灰被りは花火作りにかり出されてたぜ」
 悪魔の使いが一枚カードを入れ替えた。
「はい、3のフォアカードです」
「ダイヤのストレートフラッシュですー」
「ハートのロイヤルストレートフラッシュだ」
 それぞれに出来た役を見せ合う。どうやら、ポーカーをやっていたらしい。
「あー、負けちゃいましたねー」
「中々やりますね」
「……参考までに聞くが、イカサマをしていたのは誰だ?」
「私はしましたよ」
「私もしてましたー」
「俺はしてないぜ」
「策士策におぼれるだねー」
「いじりすぎちゃいましたー」
「……当然のようにイカサマが横行するのもどうかと思うけどな」
 ケタケタと明るくアカネが笑い、悪魔の使いがほんの少し疲れたようにむしろ苦笑といった感じでため息をついた。ファウラーはほんわかと笑い、サイコハンズは相変わらず何を考えているかわからない笑いを浮かべた。
  ドーン!
「あ、兄貴、はじまったよ!」
「ああ」
 てけてけとアカネとリュウはテラスのふちへと近づいた。
 夜空に大きく華が咲いて、少し遅れて大きな音が響く。
 それはとてもきれいな光景で、そしてとても懐かしい光景だった。
「ねー、兄貴」
「何だ?」
「来年もこうやって花火見れるといいね」
「……ああ」


  ドーン!
         ドーン!
 色とりどり、形も様々な花火が打ち上げられていく。
 その下で大勢の人が笑っていた。


☆後書き☆
 か、書けましたー!
 最後大分追い込みで制作したので怪しいですが……
 いやまぁ……書き足りないところもあるんですが。フェイスとミルのその後とか、ラゾンとユーシスとか、他のキャラとか。
 だけど書いてるとキリがないのでここらで打ち切り。あー、女性キャラ全員書きたかったなぁ。
 とりあえず皆の浴衣は各自妄想してください(ぇ)
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